行政書士/コンサルタント
エムキューブ・プラスハート株式会社
(IPA国際標準化センター主査リーガルワーキンググループ 主査) 江端 俊昭
OSSは特徴として、そのソフトウェアの「配布」を行うことができるとされています。
ソフトウェアの「配布」とは、ソフトウェアを固定した媒体を他人に供給すること(この場合、
我が国の著作権法で言えば「譲渡権」又は「貸与権」若しくは「公衆送信権等」といった権利行使がなされる)、
言い換えれば他人が当該ソフトウェアを利用できる状態におくことをいい、
これは当該ソフトウェアの複製媒体による供給、ネットワーク(LAN、WANにかかわらず)を通じた供給
あるいは当該ソフトウェアが格納されたサーバーに対するアクセス権の付与等、
形式形態にはこだわりません。
ところで、我が国の著作権法第30条では、
個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内における使用(私的な使用)を目的とするときには、
著作権者の許諾を要することなく著作物を複製(及び配布)することを認めていますが、
企業の内部的使用のために複製(及び配布)は、私的使用の範囲に該当しない(東京地判昭和52年7月22日)と
されています。
しかし、OSSライセンスの多くは法の規定とは多少異なる概念を有し、
一企業・団体内における内部的使用も私的使用の範囲として、
複製した著作物を社内で使用しても「配布」の権利を行使したことにはあたらないとしています。
また、企業がソフトウェア開発を外部の企業に委託する際、委託元の企業が有するOSSを使って
委託先企業が開発する場合や、委託先企業がOSSを使って開発したシステムを委託元企業に納品する場合が生じますが、
これらの場合においても、当該OSSについては「配布」の権利が行使されたとはみなされないとされているのが、
一般的です。
以上、「複製」「改変」「配布」とOSSライセンスが規定する著作権の代表的な許諾の実際について述べてきましたが、
「複製」「改変」と「配布」には著作権者に対する影響度において若干の差異があります。
たとえば、一般的な著作物においても、許諾した相手が、自身のためにだけに複製することは勿論のこと、
改変(仮に違法でも)して、当該著作物を使用しても、著作権者に、与える実態上影響は実際それほど大きくありません。
しかし、これを第三者に配布するとなると、影響は(それが、合法違法に関わらず)異なってきます。
したがって、ソフトウェアを使用(実行)するための条件に言及した多くの商用ソフトウェアライセンスとは異なり、
OSSライセンスは、ソフトウェアの(改変を含む)再利用を公平かつ広く遍く即すことを前提としていることから、
「配布」の権利行使については、当該ライセンスごとに、その条件規定が多様です。
一方、OSSは、その使用(改変を行うことの有無にかかわらず)が個人あるいは一企業・団体内にとどまるならば、
ライセンス内容を、それほど意識することなく利用できるソフトウェアとも言えるでしょう。