これならわかるOSSライセンス その8

江端コンサルタント   長年OSS業務に携わり続けてきた、OSSマーケティングのスペシャリスト。

<得意分野>
行政書士の資格を所有し、IPA国際標準化センターリーガルワーキンググループ主査としても活躍。
OSSライセンスに非常に詳しく、OSSを取り扱う各社からのコンサルティング依頼が殺到中のスペシャリスト。

<主な活動>
・OSSライセンス&コンプライアンストレーニング
・OSS組込みコンサルタンティング
・OSS関連コラム提供

行政書士/コンサルタント
エムキューブ・プラスハート株式会社
(IPA国際標準化センター主査リーガルワーキンググループ 主査) 江端 俊昭


今回も、引き続きOSD条項について解説します。

『3. Derived Works
The license must allow modifications and derived works, and must allow them
to be distributed under the same terms as the license of the original software.

第3条 派生したソフトウェア
ライセンスは、ソフトウェアの変更および派生ソフトウェアの作成並びにそれらのソフトウェアを
元のソフトウェアと同じライセンスの下で配布することを許可しなければなりません。』

本条は、オリジナルソフトウェア(OSD準拠のOSSライセンスが適用されるソフトウェアを示しています。)について、
改変物および派生物の生成を許諾するとともに、改変物または派生物を配布する際の条件は、
オリジナルソフトウェアのライセンスと同じ条件(すなわち、改変物または派生物に対しても、
改変物または派生物の生成を許諾することと、再配布時には、この条件を継承すること)
に従うということを規定しています。

この規定は、前回ご説明したソースコードの提供にも関連しますが、オリジナルソフトウェアのみならず、
これに改変を加えた、または派生したソフトウェアに対しても、それらを配布する際には
ソースコードの提供が前提にあると解釈できます。

では、派生物は何を意味しているのでしょうか?

米国著作権法(第101条)では、derivative work(派生的著作物)として、
「・・・翻訳、・・・またはその他著作物を改作し、変形しもしくは翻案した形式のように、一つまたはそれ以上の
既存の著作物を基礎とする著作物をいう。」とされています。

また、我が国の著作権法(第2条11)では、二次的著作物として、「著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、
又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物」との規定があります。

こうした法令を踏まえると、本条項で規定された改変物とは、オリジナルソフトウェアに何らかの変更が加えられた
オリジナルと同一でないソフトウェアであると言えます。

さらに派生物とは、オリジナルソフトウェアの表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的な表現形式を変更して
新たに創作されたソフトウェアと解すことができるでしょう。

ところで、ソフトウェアは、実現する機能が多様化、複雑化傾向にあること、当該機能を実現するために、
プログラムサイズが必然的に巨大化してきた背景がありますが、拡張性や保守性の観点からも、
従来より、多数のモジュールと称するプログラム群で構成されているのが通常です。

著作権法では、このモジュールもひとまとまりの独立したプログラム著作物として解されていますが、
OSSライセンスをソフトウェア全体で見たとき、モジュール間の独立性と依拠性はどのように考えれば良いのでしょうか?

すなわち、OSSライセンスが適用されたモジュールに対して、この改変物または派生物はオリジナルソフトウェアに
依拠するソフトウェアとして、本条項が適用されることに、疑問を抱かれる方は少ないと思われます。

一方で、OSSライセンス適用モジュールとそれ以外のモジュールの組み合わせによって構成された
ソフトウェアに対するライセンスの適用については多くの方が疑問を残されているのではないでしょうか?

次回は、他の著作物ではあまり見られない、ソフトウェアプログラム特有のモジュールに着目し、
派生物の考え方、ライセンスの適用についてさらに詳しく触れてみたいと思います。