これならわかるOSSライセンス その4

江端コンサルタント   長年OSS業務に携わり続けてきた、OSSマーケティングのスペシャリスト。

<得意分野>
行政書士の資格を所有し、IPA国際標準化センターリーガルワーキンググループ主査としても活躍。
OSSライセンスに非常に詳しく、OSSを取り扱う各社からのコンサルティング依頼が殺到中のスペシャリスト。

<主な活動>
・OSSライセンス&コンプライアンストレーニング
・OSS組込みコンサルタンティング
・OSS関連コラム提供

行政書士/コンサルタント
エムキューブ・プラスハート株式会社
(IPA国際標準化センター主査リーガルワーキンググループ 主査) 江端 俊昭


OSSは、その言葉どおりソースコードが開示されているソフトウェアですが、
では、ソースコードがなぜ開示されているのでしょうか?

多くのOSSに採用されているライセンス「GPL」の第3版では、「ソースコードは、
その著作物に改変を加えるに当たって好ましいと考えられる形式のことである(1.ソースコード)」、
Androidが採用している「Apacheライセンス」の第2版では、「ソース形式とは、
ソフトウェアのソースコード、ドキュメントソース、設定ファイルといった変更を加えるのに
都合の良い形式(1.定義)」と規定されています。

つまり、ソースコードの開示はOSSの改変を可能にするためであることが推測できます。

ではこの「改変」について触れてみましょう。

我が国の著作権法には「改変権」という権利はありませんが、支分権として「翻訳権・翻案権」という権利があります。
翻訳権は、別の言語に翻訳する権利ですが、OSSですと、他のプログラム言語に書き換える行為が該当するでしょう。

他方、翻案権は、元の著作物の特徴を維持しつつ、具体的な表現形式を変更、あるいは追加することで
新たな著作物を創作する権利ですが、OSSでは、機能の変更や追加がなされたバージョンアップ等が該当するでしょう。

我が国では「翻訳権・翻案権」の他に、著作者の人格的利益を保護するために、「同一性保持権」として、
著作者の意に反して変更、切除その他の改変を禁止できる権利を規定しています。

しかし、多くのOSSライセンスを生んだ米国の著作権法においては「同一性保持権」の適用は視覚芸術著作物に限定され、
プログラムには適用されていないため、当初、ライセンスの適法性について問題視する意見も聞かれましたが、
今日では概ね以下のような見解がとられています。

つまり、OSSにおいて改変が可能であるということは、
そもそも著作権者が「翻訳権、翻案権」を許諾しているという前提の上で、
同時に著作者として、その翻案に必然に伴う改変の限度で同一性保持権の不行使について
黙示の同意を与えているという考え方、あるいはその翻案に必要な限度での改変は
同一性保持権の適用除外規定(特定のコンピュータで利用できるようにしたり、
より効果的に利用し得るようにするために必要な改変)に該当するとして、
実務上よく行われている他のチップやOS上への移植、プログラムの不具合修正、
プログラムの最適化などは同一性保持権を主張し得ないであろうという考え方などが挙げられています。