これならわかるOSSライセンス その12(最終回)

江端コンサルタント   長年OSS業務に携わり続けてきた、OSSマーケティングのスペシャリスト。

<得意分野>
行政書士の資格を所有し、IPA国際標準化センターリーガルワーキンググループ主査としても活躍。
OSSライセンスに非常に詳しく、OSSを取り扱う各社からのコンサルティング依頼が殺到中のスペシャリスト。

<主な活動>
・OSSライセンス&コンプライアンストレーニング
・OSS組込みコンサルタンティング
・OSS関連コラム提供

行政書士/コンサルタント
エムキューブ・プラスハート株式会社
(IPA国際標準化センター主査リーガルワーキンググループ 主査) 江端 俊昭


モジュールと全体の関係を考える際、テレビドラマを例に考えてみましょう。

たとえば大河ドラマ。
これは一つの大きなストーリーを一回の放映時間という制約条件を踏まえ、標題の小さなストーリーに分割しています。
しかし、ストーリー全体の連続性は維持されています。

従って、個々の標題をモジュールとして置き換えた場合、モジュールとしての独立性については低いと言えます。

一方、オムニバス形式のドラマがあります。
こちらは、ドラマのテーマに沿って短編ストーリーがいくつか集められドラマ全体を構成しています。
各短編はテーマに沿った内容でも、個々のストーリーは直接の関係がありません。

この短編一つ一つをモジュールとすれば、モジュール間の独立性は高いと言えます。

仮に個々のストーリーの著作者が別だったとすると、大河ドラマ型は共同著作物、
オムニバスドラマ型は集合著作物にあたると言えるでしょう。

他方、連続ドラマでも一話完結の形態があります。

ただし、一話完結でも、勧善懲悪型の時代劇に見られるような、短編を連続ドラマとして構成している
オムニバスの形態もあれば、最近のテレビドラマに多い、完結した一話が別のストーリーの伏線の役割を果たす
エピソード型もあります。

こうしたエピソード型の場合、個々のエピソードと伏線の結果にあたるストーリーとの関係は
二次的著作物にあたると言えるでしょう。

また、このようなドラマをより効果的に見せる役割を担う目的でテーマ曲や挿入曲が用意されますが、
こうした映像と音楽の関係は、結合著作物にあたると言えます。

つまり、同じドラマに類する著作物であっても、モジュールと全体の関係は、
どのようにストーリーを表現していくかという創作形態によって異なるということなのです。

また、一つのドラマの中においても、多様な創作形態が複合している場合は、
当然、関係性を一義的に解釈することは難しくなります。

ところで、法律専門家の間では、著作物の利用に関して、当該著作物の
 ・共同著作物
 ・二次的著作物
 ・結合著作物
 ・編集著作物(集合著作物)
という形態の違いについては、厳密には言及はしていないのが実状です。

確かに個々の著作物に対する権利の帰属者を特定することは重要です。

しかし、形態の違いで著作権者に付与される権利に大きな差異があるわけではないからなのです。

たとえば、
 ・共同著作物に対する個々の著作者
 ・二次的著作物の著作者と元の著作物(原著作物)の著作者(原著作者)
 ・編集著作物の著作者と素材の著作者
に対する法的保護のレベルは同等です。

また、
 ・共同著作物に対する個々の著作者同士では、自身以外の他の共同著作者
 ・二次的著作物の著作者に対する原著作者間では、原著作者
 ・編集著作物の著作者に対する素材の著作者間では、素材の著作者
の同意がなければ、当該著作物を任意に利用できないと定められています。

これも著作権者と利用者の関係に特段の差異はありません。

結合著作物や集合著作物であっても、編集著作物と同様、組み合わせた成果物の利用は、
その構成要素にあたる著作物の著作者の同意がなければ、組み合わせた形態での利用はできないとされています。

つまり、二つ以上の著作物において、

 当該の著作物間に上述の関係が直接生じている限り、
 その形態が何であれ、当該の著作物に対して、
 著作権者が個々に付与する許諾要件についての矛盾
 (二つ以上の著作物の一方が複製を許諾しているにもかかわらず
  他方が複製を禁じている場合など)
 が生じていないこと

が、利用する上での絶対の条件であるということなのです。

OSSを利用する際、そのライセンスの及ぶ範囲を解釈する上で、モジュールおよびモジュール間の独立性が問われます。

この著作物の視点でのモジュールの独立性は、プログラムにおける機能レベルで言う独立性とは若干異なります。

今回述べてきたように、著作物としての関係性の有無を創作経緯を踏まえて解釈する必要があります。

関係性が無ければ独立したモジュールとして個々の許諾に従った利用ができます。

一方、関係性を有するモジュールについては、双方モジュールの許諾条件に相反しないことで利用が可能になります。