これならわかるOSSライセンス その11

江端コンサルタント   長年OSS業務に携わり続けてきた、OSSマーケティングのスペシャリスト。

<得意分野>
行政書士の資格を所有し、IPA国際標準化センターリーガルワーキンググループ主査としても活躍。
OSSライセンスに非常に詳しく、OSSを取り扱う各社からのコンサルティング依頼が殺到中のスペシャリスト。

<主な活動>
・OSSライセンス&コンプライアンストレーニング
・OSS組込みコンサルタンティング
・OSS関連コラム提供

行政書士/コンサルタント
エムキューブ・プラスハート株式会社
(IPA国際標準化センター主査リーガルワーキンググループ 主査) 江端 俊昭


今回は、二つ以上の著作物あるいは二人以上の著作者が伴う著作物に関する著作権法上の形態と
モジュールの取扱いについて整理してみましょう。

まず、ある既存の著作物を翻訳または翻案(著作物の内面形式(思想・感情)を維持しつつ、
その外面形式(表現)を変えること)して創作された二次的著作物があります。

次に、2人以上の者が共同して創作する意志をもって創作した著作物で、その各人の寄与を分離して
個別的に利用することができない(不可分といいます)共同著作物があります。

また、その対比として、我が国の著作権法上、明文化はされていませんが、概観上は1個の著作物のようでありながら、
著作物全体の創作に関しては共同行為がみられず、それぞれ独立した著作物が結合している結合著作物という考え方があります。
(米国著作権法では、それ自身が別個独立の著作物となる多数の寄与物が1つの集合体に編成されている形態を
集合著作物として明文定義しています。)

さらには、その集合著作物も含まれますが、著作物であるなしにかかわらず複数の素材の選択または配列による
創作性をもつことで権利が生ずる編集著作物もあります。

では、こうした形態に対してモジュールは、どう位置付けて考えれば良いのでしょうか?

例えばモジュール(O)があったとします。
これが「O」と「O”」という複数の開発者によって作成された場合、
この(O)は「O」、「O”」による共同著作物となります。

では、この(O)に改変を加えてモジュール(P)を作成したとします。
この場合、モジュール(P)はモジュール(O)の二次的著作物になります。

また、モジュール(O)と別に存在するモジュール(Q)を組み合わせた場合、
その組み合わせた結果は、結合著作物となります。

さらに、(O)と(P)を組み合わせて(Y)という成果物が生じる場合、
(Y)は(O)(P)の集合著作物あるいは編集著作物になり得るかもしれません。

それゆえに、昨今のソフトウェアはモジュールが集まってシステムを構成しているので集合著作物と
明言される方もいらっしゃいます。

しかし、一概にそう定義づけて良いものでしょうか?

モジュール(O)と(Q)の組み合わせを結合著作物とするならば、動的リンクであれ静的リンクであれ、
結合著作物に変わりはないでしょう。

にもかかわらず、リンク形式の違いで権利関係を異なるものと認識されている方が多いのはなぜでしょうか?

また、成果物(Y)ですが、実は、モジュール(O)(Q)が(Y)を開発や保守の都合上で分割した結果
(機能分割を行う上で開発効率や保守の容易性は当然分割の要因になっているものと思われます)による
作成物だったとすると(O)と(Q)は、(Y)を実現する上では不可分な要素と位置付けられます。

その結果、成果物(Y)は、開発者の「O」と「O”」に加えて「Q」も著作者となる共同著作物との解釈も可能性になります。

つまり一口にモジュールといっても、単体個別のモジュールの組み合わせによる結果なのか、
モジュール分割という所作に起因した再構成なのかで、著作権法上の形態は全く異なるものになるのです。

ここまでの説明はソースコードファイルレベルでの並列な関係を想定したものですので、
二次的著作物は(O)の改変による(P)ということで、この形態については皆さんも異論がないものと思います。

しかし、前回のおさらいにもなりますが、(P)が(O)を基にした著作物であるという点をとらえれば、
ソースコードファイルから実行イメージファイルが生成されるという垂直な関係においては、
二つ以上のソースコードから生成される実行イメージファイルは、その生成が動的リンクであれ静的リンクであれ、
ソースコードのプロシージャが明らかに含まれているわけです。

それで、個々のソースコードファイルに対する二次的著作物にあたるという解釈も成り立つのです。

事実、LGPLv (GNU 劣等一般公衆利用許諾契約)2.1のセクション5には、こうした解釈の内容が明文化されています。

従って、モジュールの取扱いについては、単にモジュールという形態のみにとらわれることなく、
個々のモジュールが各々モジュールとして形成された経緯にまで視野を広げることが権利関係を把握する上では
本質的な重要性を持ちます。

その上で、モジュール自体と当該モジュールから直接構成されている全体との関係を
再認識することが大切になってきます。

そこで、次回、このモジュールと全体の関係をどう考えるかについて、もう少し掘り下げてみます。