これならわかるOSSライセンス その3

江端コンサルタント   長年OSS業務に携わり続けてきた、OSSマーケティングのスペシャリスト。

<得意分野>
行政書士の資格を所有し、IPA国際標準化センターリーガルワーキンググループ主査としても活躍。
OSSライセンスに非常に詳しく、OSSを取り扱う各社からのコンサルティング依頼が殺到中のスペシャリスト。

<主な活動>
・OSSライセンス&コンプライアンストレーニング
・OSS組込みコンサルタンティング
・OSS関連コラム提供

行政書士/コンサルタント
エムキューブ・プラスハート株式会社
(IPA国際標準化センター主査リーガルワーキンググループ 主査) 江端 俊昭


OSSを利用する際に、許諾の対象となる主だった支分権について個々に触れていきましょう。

まずは、「複製」とはどういうことでしょうか?

あなたが、OSSを入手しようとしてWebサイトからダウンロードしたり、
それを他人に配布するためにCDやDVDに書き込んだりする行為は、「複製」にあたります。
「複製」とは、著作物を新たな有体物、つまり一般的にメディアといわれる
HD、CD、DVD、ROMやマイクロチップ等に固定することをいいます。

次に、あなたが入手したOSSを実行するために、
ソースコードをコンパイル・リンクして実行イメージを生成したとします。
この場合、生成されたイメージはコンパイラやリンカーによってソースコードとは異なる形態になりますが、
法的には同一のものと解されており、かつ生成されたイメージもメディアに固定されていますので、
複製物にあたるとされています。

では、固定されるとはどういうことでしょうか?
たとえば、メモリー上にロードされるOSSの実行イメージあるいは
OSSをクラウド環境のWebアプリケーションとして利用する場合などは、
厳密言えばメディアに固定されているとはいえません。

こうした利用は「一時的蓄積」と定義づけられていますが、
欧米先進国では、一時的に蓄積されることも「複製」に該当するとした上で、
複製権を制限すべきという解釈がなされています。

複製権の制限とは、著作権者の許諾を得ずとも複製行為ができるということで、EUでは、権利制限規定として、
契約において特段の定めがない、プログラムの利用に必要であること、プログラムの適法な取得者によること、
プログラムの意図された使用目的(プログラムの利用許諾契約において規定されることが考えられる種々の条件)に
合致していることが要件として明文化されています。

一方、我が国では一次的蓄積に関する明文規定がないこと、
「複製」の概念とするには、蓄積行為が発生する都度、著作権者の許諾を要する可能性もあることから解釈が分かれ、
欧米と同様の見解に立つことに慎重でしたが、平成21年の著作権法の改正で、
電子計算機における著作物の利用に伴う複製(法47条の8)として、例えばOSSの実行(メモリー上の一次的蓄積)や
クラウド環境におけるOSSのブラウザ上での利用(ユーザー端末上の一次的蓄積)行為そのものは、
その行為の対象となるOSSの利用について著作権を侵害していなければ、著作権侵害とならないことが明文化されました。

従って今後は、「複製」の範囲や権利制限のおよぶ範囲についても欧米と差異のない扱いがなされるものと考えられます。